哀愁の矢の川峠
「矢の川峠(矢ノ川峠)」と書いて「やのことうげ」と読む。私やのこ小僧も地元尾鷲からいろいろと情報発信しまっせ!  【 このページの文章、写真は無断で転用しないでください。もしご利用される場合ははやのこ小僧までご一報を!】

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吉川英治の色紙

昭和25年 吉川英治が「新・平家物語」の執筆取材旅行のために尾鷲、熊野を訪れた際、矢ノ川峠を越えています。
このときの様子は「新・平 家 取 材 旅 行 日 誌」に詳述されている。

尾鷲から熊野への部分を抜粋してをそのまま下記に表示します。




十二月十一日  

昨夜ノ宿 鳥羽の戸田別館、居心地よし、十時立。
自動車にて、賢島の御木本真珠養 殖場へ赴ク  
   ・
   ・  
   ・
再び自動車にて 鳥羽ニ返り 路傍にて一向の荷物を受けとりて そのまま 佐奈駅まで急ぐ  
からくも時間ニ間ニ会ふ 見送りの入江氏支局長らと茲にて別る 列車二輌 山村又山村を過ぎ暮  

夜 尾鷲に着く 宵の町 道せまく灯多くおもしろき 南伊勢の漁村町なり、旅館五丈は海辺の断崖上ニあり 夜、町長支局員ら来り食事を共にす "尾鷲ぶし"の古曲を聞くあんまをとる 入念にして技術よき老婆なり 翌朝も 加治氏と共ニ 揉んでもらふ 朝寝する 九時半頃起床 文子ニ葉書かく。
吉川色紙


十二月十二日  

朝、宿ノ主人町長、女中等ニ色紙短冊など書く 杉本画伯もやる。旅中の句四、五、

  熊野路や小春の海を見ぬ日なく

  海明り障子の内の水仙花

  世にすまぬ心地師走の旅のどか

十二時頃、宿ヲ立つ 夜来婦人会の女性など何くれと旅舎ニ世話アリ見送りなどうける。冬日和風なくのどか。  
自動車トヨペットに 僕、加治氏、杉本画伯 それニ旅館の主人乗る。町を南へ過ぎ 矢の子〈矢ノ川〉越えして 木本、新宮迄行くなり 山嶮なれど 道路よし 途中大念仏小念仏など 運転手にとりて難所あり。  
海抜八百メートル余 頂上に着く、回顧すれば尾鷲湾九鬼湾など一面の鏡か湖の如し 近く尾鷲ヨリ新宮まで海岸線を行く観光路の起工ありなど 宿の主人ヨリ聞く。  

峠にわびしき ほっ立て小屋一つあり みかんなど僅かを並べて 三十がらみの痩せ形なる人妻の 子を負ひて この山中ニ唯一人して 一日ニわづか五六回通るバスの客のみをめあてに物をひさぎ 茶を売るなりける  

自分たちも展望台を降りて 小屋の内ニ休む 土間とて床几一つあるにもあらず 石ころを炉なりに囲みて 榾少しを燃やし黒みたるニームの薬鑵かけてそれニ葉茶を入れたるを汲みて出す。女、余ニ大阪か東京かと問ふ。そして吉川先生ならんと云ひ中てければ皆驚き興じて 果ては女の身上など問ひ侘びける  

女、良人ニ別れ 乳のみ児一人を負ひ 家ニ老母とカリヱスの妹を養ふ。朝 五時ニ起き バスの一番ニ乗り峠の上ニ来て 終日商をし 夜、六時のバスにて家ニ帰るなりと 加治氏大いニ同情して 志を与ふ 余も与へ 後ニ その夜 尾鷲ニ返る五丈旅館の主人に色紙たんざくを托して 峠の女ニ与ふ

  茶売女の乳も涸れがてよ冬の山
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  背の乳子も長けてふりむくよき日あれ 峠の茶屋ニ榾焚きし母  

cyayanosikisii002.jpg

自動車 黄昏れニ迫りて 紀伊小坂の部落を通る この辺なほ三重県なりとぞ 五丈旅館主運転手共ニ犬好きニて 途中 小坂の一農家ニ立寄り 紀州犬を飼へる老婆ニつき 紀州犬のよきもの二三頭見せて貰ふ 五丈君大いニ犬の智識を弁ず われらも 紀州犬ニ就て 大いニ新智識を得たり やがて後日 東京へ この犬種の仔一匹届けむといふ もし奥多摩にて飼はゞおもしろからむとおもふ。  

木宮駅【木本駅??)ニ着く 汽車ニて 先発ノ小谷君小川君待合ス 我らは それより又 自動車ニて 町を一巡 七里御浜を疾走して、新宮ニ着く、夕雲赤く、七里ノ松原 ハゼ紅葉 白き芒などいと美はし 新宮は昭和二十年の震災大火ニて旧きおもかげなし 旅館「美船」ニ泊る 支局の人其他来り、夜十時頃就寝、 この夜 国子の病癒えたる夢を見、夜半眼をさまし ふと遠く 留守の平穏と国子の無事を祈る  

かきちらしたる色紙の句、誌

  熊野巫女申さく旅は楽しめよ

  吾以外皆吾師也

  旅情童心




このように吉川英治は、尾鷲の長浜「五丈旅館」に一泊し、町長や婦人会のもてなしを受けたようです。この時に尾鷲節を始めて聞き、後に矢の川峠を越える場面を歌詞にして提供されたと伝えられています。
また峠の休憩時に、稲田さんの長女、宏子さんの事を2枚の色紙に残しています。
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